ピルは飲みたい。でも「血栓症」が怖い…あなただけの悩みじゃありません。
「お客様とのお付き合いで、タバコがやめられない…」 「不規則な生活とストレスで、身体はボロボロ…」 「ピルを飲みたいけど、血栓症のニュースを見て不安になった…」
望まない妊娠を避け、生理をコントロールするために、ピルは私たち夜職女子にとって最強の味方です。でもその一方で、「血栓症」という言葉が頭をよぎり、一歩踏み出せない方も多いのではないでしょうか。
一般的なサイトには「喫煙者はリスクが高い」としか書かれていない。でも私たちが知りたいのは、「じゃあ、具体的にどうすればいいの?」ということですよね。
この記事では、産婦人科医・循環器内科医監修のもと、夜職特有のライフスタイルがなぜ血栓症リスクを高めるのかを徹底解剖。その上で、リスクを正しく管理し、自分に合った「安全なピル」を選ぶための具体的な知識と方法を、どこよりも詳しく解説します。
そもそも「血栓症」とは?なぜピルでリスクが上がるのか
血栓症とは、簡単に言うと「血の塊(血栓)が血管を詰まらせてしまう病気」です。脳の血管で起これば脳梗塞、心臓なら心筋梗塞、足や肺の血管で起こるのが「静脈血栓塞栓症(VTE)」で、ピルの副作用として主に問題になるのはこのVTEです。
産婦人科医からのアドバイス: 低用量ピルに含まれる女性ホルモン「エストロゲン(卵胞ホルモン)」には、血液を固まりやすくする作用がわずかにあります。これが、ピル服用によって血栓症のリスクが少しだけ上がる理由です。
ただし、リスクは非常に稀です。ピルを飲んでいない女性の血栓症発症リスクが年間1万人あたり1〜5人なのに対し、ピル服用者は3〜9人とされています。これは、妊娠中(5〜20人)や出産後(40〜65人)のリスクに比べれば、はるかに低いものです。
リスクはゼロではありません。しかし、正しく理解すれば、過度に怖がる必要はないのです。
【専門家が警鐘】夜職女子に潜む「血栓症リスクを高める」5つの生活習慣
問題は、ピルそのもののリスクよりも、私たちのライフスタイルに潜む「リスク因子」が、ピルのリスクと掛け合わさってしまうことです。
リスク因子1:喫煙
これが最大のリスク因子です。ニコチンは血管を収縮させ、血圧を上昇させます。また、血液をドロドロにし、血栓ができやすい状態を作り出します。
リスク因子2:強いストレス
売上や人間関係のプレッシャーは、自律神経やホルモンバランスを乱します。ストレスホルモンであるコルチゾールは、血液の凝固作用を促進することが知られています。
リスク因子3:不規則な生活・不眠
昼夜逆転の生活や睡眠不足は、血圧や血糖値のコントロールを乱し、血管にダメージを与えます。体内時計の乱れが、血液凝固システムに悪影響を及ぼすという研究もあります。
リスク因子4:長時間の同じ姿勢
お客様の隣に長時間座り続ける、待機室でじっとしている…。これは、飛行機に長時間乗るのと同じ「エコノミークラス症候群」のリスクを高めます。足の血流が滞り、血栓ができやすくなります。
リスク因子5:脱水
お酒、特にシャンパンやワインには利尿作用があります。飲酒量に対して水分補給が追いつかないと、体は脱水状態に。血液が濃縮され、ドロドロになってしまいます。
あなたのリスクレベルをセルフチェック: 以下の項目にいくつ当てはまるか、数えてみてください。
- タバコを吸う習慣がある
- 強いストレスを感じることが日常的にある
- 睡眠時間が平均6時間未満、または昼夜逆転している
- 仕事中、2時間以上座りっぱなしのことが多い
- お酒を飲む際、飲んだ量と同量以上の水を飲んでいない
▶ 3つ以上当てはまった方は、ピルを服用する前に、必ず医師に自分のライフスタイルを正直に伝え、相談する必要があります。
【最重要】喫煙とピル|「1本だけなら大丈夫」は本当か?
この問題について、医学的な原則と現実的な対応をはっきりとお伝えします。
絶対的なルール:「35歳以上・1日15本以上」は禁忌
まず、「35歳以上で、1日に15本以上タバコを吸う方」は、低用量ピルの服用が禁忌、つまり絶対に処方してはいけないことになっています。これは、心筋梗梗塞などの重篤な副作用のリスクが、許容できないレベルまで跳ね上がるためです。
グレーゾーン:34歳以下の喫煙者、またはライトスモーカーの場合
では、上記に当てはまらない場合はどうでしょうか。 「20代だから大丈夫」「1日5本だけだから平気」…そう考えるのは危険です。
年齢や本数に関わらず、喫煙は血栓症のリスクを確実に高めます。 年齢が若くても、本数が少なくても、リスクは非喫煙者より高くなります。ピルによるリスク上昇と、喫煙によるリスク上昇が「掛け算」になるイメージを持ってください。
医師は、これらのリスクを総合的に判断して処方の可否を決めます。問診で喫煙について聞かれた際は、見栄を張ったり嘘をついたりせず、正直な本数と年数を伝えることが、あなた自身の命を守るために最も重要です。
血栓症リスクを管理する「安全なピル」の選び方
幸いなことに、ピルにはいくつかの種類があり、リスクレベルに応じて選択することが可能です。
選択肢1:エストロゲン量がより少ない「超低用量ピル」
現在主流の低用量ピルよりも、血栓症リスクの原因となるエストロゲンの配合量をさらに少なくしたピルです。ヤーズフレックスやルナベルULDなどがこれにあたります。血栓症リスクが低用量ピルより低いとされており、喫煙者などリスク因子を持つ方に最初に検討されることが多い選択肢です。
選択肢2:世代で選ぶ「第二世代ピル」
ピルは、含まれる黄体ホルモンの種類によって「世代」に分けられます。第三世代や第四世代の新しいピルは、ニキビ改善などの副効用が期待できる一方、第二世代のピル(トリキュラー、ラベルフィーユなど)に比べて血栓症リスクがわずかに高いという報告もあります。リスクを最優先に考えるなら、第二世代ピルも有力な選択肢です。
選択肢3:血栓症リスクがほぼない「ミニピル(黄体ホルモン単剤ピル)」
エストロゲンを含まず、黄体ホルモンのみで作られたピルです。血栓症リスクがほとんどないため、喫煙者や肥満、高血圧などで低用量ピルが飲めない方に処方されます。 ただし、毎日決まった時間に厳密に服用する必要があり、飲み忘れに非常にシビアなこと、不正出血が起こりやすいことなどのデメリットもあります。
医師との相談ポイント: 診察の際は、ただ「ピルが欲しい」と伝えるのではなく、 「喫煙習慣があるのですが、一番リスクの低いピルはどれですか?」 「ストレスや不眠も気になるので、超低用量ピルを試してみたいです」 というように、自分の状況を伝えた上で、具体的に相談してみましょう。
命を守る知識。見逃してはいけない血栓症の初期症状「ACHES」
万が一に備え、血栓症の危険なサインを絶対に覚えておきましょう。以下の頭文字をとって「ACHES(エイクス)」と呼ばれます。
Abdominal pain (アブドミナル・ペイン) → 激しい腹痛
Chest pain (チェスト・ペイン) → 激しい胸痛、息切れ、押しつぶされるような痛み
Headache (ヘッドエイク) → 激しい頭痛、めまい、失神
Eye problems (アイ・プロブレム) → 目の見え方の異常、視力障害
Severe leg pain (シビア・レッグ・ペイン) → ふくらはぎの痛み・むくみ・腫れ、握ると痛い
これらの症状が一つでも現れた場合は、「様子を見よう」などと絶対に考えず、すぐにピルの服用を中止し、救急車を呼ぶか、夜間救急外来を受診してください。
ピルが飲めない場合は?夜職女子のための他の避妊法
医師との相談の結果、血栓症リスクが高くピルが服用できないと判断される場合もあります。その際は、他の確実な避妊法を検討しましょう。
- ミレーナ(IUS/子宮内システム): 子宮内に小さな器具を装着し、黄体ホルモンを放出して避妊します。一度装着すれば最長5年間効果が持続し、生理の量が減るという大きなメリットも。血栓症のリスクはありません。
- 避妊インプラント(皮下インプラント): 腕の皮下に小さな棒状のインプラントを埋め込み、避妊効果を発揮します。最長3年間有効で、血栓症リスクは増加させません。
まとめ:リスクを正しく理解し、専門家と繋がること
最後に、今日の最も重要なポイントをまとめます。
- 夜職のライフスタイル(喫煙、ストレス、不眠等)は、血栓症リスクを高める。
- 「35歳以上・1日15本以上の喫煙」はピル絶対NG。それ以外でも喫煙はハイリスク。医師に正直に伝えること。
- ピルには種類があり、「超低用量ピル」や「ミニピル」など、リスクに応じた選択肢がある。
- 血栓症の初期症状「ACHES」を覚え、症状が出たら即座に救急へ。
- ピルが飲めなくても、ミレーナなど他の確実な避妊法がある。
血栓症は確かに怖い病気です。しかし、リスクを正しく理解し、自分のライフスタイルを客観的に把握し、信頼できる専門家と繋がっていれば、そのリスクは十分に管理できます。
一人で悩まず、オンライン診療などを活用して、あなたの生活習慣を正直に話せる医師を見つけてください。それが、あなたの健康と未来を守るための、最も確実な一歩です。
最終注意事項: この記事は、ピルと血栓症に関する情報提供を目的としており、医学的診断に代わるものではありません。ピルの処方には必ず医師の診察が必要です。この記事で紹介した症状やリスクに心当たりがある方は、速やかに医療機関にご相談ください。